ミヤガワ日記

ピアノや読書を中心に、日々の気になったことを書いていきます

シューマン=リストの「献呈」は何故日本人ピアニストによく取り上げられるのか?(不肖動画もありw)


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この間、久しぶりに新宿のタワーレコードに行ったのですが、日本人のピアニストのCDのコーナーを覗いていて気づいた事があります。

 

収録されている曲目は様々なのですが、シューマン作曲、リスト編曲の「献呈」(Widmung、君に捧ぐ)を収録している日本人ピアニストが多いという事です。

勿論、僕がこの曲をよく知っているので、カラーバス効果(意識しているものが目につくという事)で目につく、という事はあると思いますが、やはり結構多い印象です。

 

例えば今をときめく日本人ピアニスト「牛田智大 献呈~リスト&ショパン名曲集」さんや、「反田恭平 月の光~リサイタル・ピース第1集」さんもCDに収録しています。反田恭平さんに至っては2枚も「献呈」を収録したCDが存在していました。ライヴ版とスタジオテイク版でしょうね。デビューしてそれほど経っていないのにこのペースはすごいですね。

僕が持っているCDでも主なところで「河村尚子」さんや、「横山幸雄」さんがこの曲を収録されています。他にも僕はCDを持っていませんが「蔵島由貴」さんや、「外山啓介」さん等々、数え切れないほどの多くの日本人演奏家が取り上げています。アマゾンのプライムミュージックではもっと多くの演奏家の「献呈」がありました。

 

 

 

もっとも日本人ではなくても、「ユンディ・リ」や「キーシン」の弾いた献呈のCDも持っていますが…。

余談ですが、ピアノサークルでもこの曲を弾く人は沢山います。僕も以前入っていたピアノサークルで弾いたことがあります。拙い演奏をyoutubeにアップしていたりもします(後ほどリンクを貼りますが…)このピアノマニア界隈ではあまりに弾く人が多いので逆に弾きづらい側面があります。

 

 

 

 

 

【考察】なぜ「献呈」なのか? リストの「愛の夢」じゃあかんのか?

歌曲集「ミルテの花」より「献呈」はロベルト・シューマンによって歌曲として作曲されました。リュッケルトの詩に基づいて作曲されているのですが、この曲をクララ・シューマンとの結婚式の前夜にクララに捧げた、という逸話が残っています。ロマンティックですね。

そしてピアノ独奏版の「献呈」はこの歌曲集のメロディを元にしてフランツ・リストが編曲したものになります。その演奏を聴いたクララは「原曲の良さを台無しにしている!」と怒ったとか。
今ではどちらも良い曲だと思いますけれどね。クララにしたら「ロベルトがせっかく私に捧げてくれた私だけの曲を改悪された!」という気分だったのでしょう。そんな気持ちよく分かります。よく映画やドラマでも「原作の良さをとどめていない!」といって怒る人々の気持ちと一緒ですかね?ちなみにクララ自身もピアノ独奏版に編曲しているのですが、こちらはあまり弾かれていないようです。

 

閑話休題、僕は楽曲分析等はできないのですが(汗)、自分なりに「なぜこの曲がよく弾かれているのか?」考察してみたいと思います。

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1.アンコールピースにぴったり

一番の理由はこれですね。献呈という曲は演奏にもよりますが、長さが3分半から4分ほどで、ピアニストがさらっと演奏するアンコールにぴったりの曲です。ですのでピアニストの収録したCDの収録曲目を見ても、ソナタ等の大曲の後に収録されている場合が多いです。ボーナストラックとして収録されている場合も。

また、この曲はシューマンの曲の後にアンコールとして弾くのは勿論、リストの曲の後、広くロマン派の曲の後に弾くのにも向いています。ようするに「オールマイティ」な曲な訳です。

この曲は「華やかさ」と「しみじみとした静けさ」の両方を内在しています。その特性はアンコールにぴったりです。リサイタルの曲目が静かでしみじみと終わればアンコールでこの曲は「華やか」に聴こえるでしょうし、逆に超絶技巧の音の嵐で終わればまるで「食後のデザート」のように爽やか、かつさっぱりと聴こえるでしょう。

 

 

2.難易度の割に演奏効果が高い

この曲は難しいです。確かに難しいですが、リストの他の作品と比べると「楽」な部類に入るのではないでしょうか?ピアニストであれば誰でも弾ける位のレヴェルだと思います。

1ページめは主題の提示、2ページ目になるとその主題をリストらしい「いじり方」で左手に旋律を持ってくる、その間右手は華やかに6度の和音移動を奏でる。3ページ目は伴奏の中に旋律を浮かび上がらせるシューベルトの即興曲風な中間部、展開して華やかに主題が戻ってくる。この右手のアルペジオ部分がとても難しいですが、リストに慣れた人であったら手に馴染むと思います。それが終わると、重音で主題を奏でる部分、その後アヴェ・マリアの旋律でサラッと終わります。

こうして書いてみるとかなり沢山の「演奏技法」が必要な事が分かります。そしてこれらの「効果」は抜群で、かなり難しい曲に聴こえます。特に右手のアルペジオが縦横無尽に低音から高音(あるいはその逆)に移っていく部分とか。

あなたも是非挑戦して下さい。演奏効果はとても高いです。

 

 

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↑ここの右手難しいです…いまだに満足に弾けません。

 

 

3.通(ツウ)ぶれる?

一般の人はフランツ・リストの「愛の夢第三番」と、この「献呈」どちらを知っているか? 

これを考えると圧倒的に「愛の夢第三番」の方が有名だと思います。愛の夢は「この曲、どこかで聴いたことある!」となるでしょう。しかし献呈はピアノを弾く人の間ではとても有名ですが、一般の人はほぼ知らないのではないでしょうか?

なぜ「愛の夢」を比較対象にしたかというと、長さも同じくらい、難易度も献呈の方が少し難しい位で同じくらい、ピアニストがアンコールでどちらを弾くか?迷う曲目と考えたからです。

そして、多くのピアニストが選ぶのは「献呈」のほうです。愛の夢は些か食傷気味というか、有名になりすぎているのです(とても良い曲ですが)。
また献呈の場合は技巧にも沢山の「ヴァリエーション」が必要ですが、愛の夢はそれほどでも無い気がします(僕はどちらも巧く弾けないですけれど笑)。
愛の夢は旋律は基本右手で、一番盛り上がるホ長調の部分と細かい音を克服できればOK的なイメージがあります。

という訳で、親しみのある甘美でかつ美しいメロディを持ちながらも、まだまだ一般には浸透していない「献呈」を選ぶ事で「通」とみなされる、という仮説を立ててみました。

想像ですが、ピアニストとしてもアンコールを聴いた聴衆が「あの曲はなんて曲だろう?とてもいい曲だった」と思われたいでしょう。

まぁ、そもそもこんな安易な理由で選曲するピアニストはいないと思いますが、ピアニストの戦略的な部分に目を向けるとこのような考えがあっても良い気はします。

 

 

4.単純にピアニストに「献呈」好きな人が多い

これは大いにあり得ます。ピアニストは戦略的にプログラムなりCDの曲目を決めますが、嫌いだったら弾かないと思われます。いい曲ですしね。

献呈は元々「歌曲集ミルテの花」の一部の曲なので、歌曲特有の「親しみやすい旋律」が存在します。ようするに歌で歌えるような旋律、フレーズな訳です。プロコフィエフや、スクリャービン、シェーンベルク等々の曲を鼻歌で歌うのは難儀ですが、この曲は歌えるのですね。

またこの曲の構造について、最初は主題が素朴に提示され、次はその主題を装飾するような音型に変わり、中間部の少し静かなところを経て、再び主題が超絶技巧で高らかに歌われその後、また形を変えて主題、最後はアヴェ・マリアの旋律を少し出して終わる、という形になっています。

つまり主題に使用されるテーマが重要になってくるのですが、このテーマの旋律がとても優しい気分にさせてくれる、いかにも結婚式にふさわしい愛に満ち溢れたテーマとなっているのが、ピアニストをその気にさせるのではないでしょうか?

「このテーマをどうやって料理してやろうか?」とほくそ笑むピアニストの姿が見えるようです。 

 

僕の過去の「献呈」の演奏

さて、僕もこの曲を人前で弾いたことがあります。ピアノサークルと発表会で弾いたのですが、一番最初はなんと!親戚の結婚式で弾いたのです。

当時の僕はこの曲を弾きこなすレヴェルではありませんでした。大体、小さい頃にバイエルしか終わらなかった人間が大人から再開して「献呈」を弾けるようになるわけ無いと(僕のピアノ歴については過去の記事に小出しにしているので興味があれば読んでみて下さいw)。

しかし親戚に「是非ピアノ弾いて下さい」と言われて何の曲を弾こうか?と迷った時にこの曲を選んでしまったのです。先にも書いた通り「シューマンが結婚式の前夜にクララに捧げた」というこの曲の逸話が華やかさとしみじみした感じを持つ「結婚式」という場に適切だと思ったからです。

当時僕は20代の大人でしたが、ピアノ教室に通っておりそこではチェルニー40番で壁にぶち当たっていました。その程度の人間がこのような曲を弾こうとするものだから、右手の6度進行が滑らかに出来ない、その間の左手の旋律が埋もれてしまう、中間部の旋律が上手く出せない、盛り上がるはずの右手のアルペジオが切れ切れになってぎこちない、重音の三連符と右手の旋律の拍が合わない、と散々でしたが、アルペジオの練習と、僕のブログに何度となく出てくる「ピシュナ 60の練習曲 解説付 (坂井玲子校訂・解説) (Zenーon piano library)」の練習で、何とか親戚の結婚式で弾く事が出来ました。あの時は緊張したなぁ(笑)。

その時の奮闘は機会があればまた記事にしたいと思います。

 

youtu.be

↑恥を忍んで動画を貼り付けます。6年位前に都内の音楽スタジオで撮ってみたものです。強弱が付いてませんね(汗)

 

弾きたい、と思ったあなたも是非挑戦してみて下さい。人生は短いです。やりたいと思った時にやらなければ時間が過ぎるだけです。上手く弾ければとても華やかで、良い曲ですよ。

 

読んでいただきありがとうございました!

 

2018/11/24追記:たまたま現在開催されている浜松国際ピアノコンクールのストリーミング配信を視聴していたら、ヤマハとローランドの両方のメーカーがこの曲をCMとして使用していましたw

曲中の最初の部分がヤマハ、中間部がローランドというように、使っている場所は違うのですが、ピアノコンクールのCMでこのような「被り」が出るなんて、ちょっと面白いですね。それだけ、献呈は魅力的な曲という事でしょう。

 

 

 

 ↓この楽譜の1曲めに収録されています

 

と思ったらピースでも↓販売されていました。